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東京高等裁判所 昭和57年(く)175号 決定

少年 R・Z(昭四〇・四・一五生)

主文

原決定を取り消す。

本件を東京家庭裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告の趣意は、法定代理人親権者父R・U、原審附添人○○○○共同作成名義の「抗告書」と題する書面に記載されたとおりであるから、ここにこれを引用する。

論旨は、法令違反、事実誤認(但し、原判示「罪となるべき事実」に関するものではない。)をいう点もあるが、その実質は、少年に対しては保護観察による社会内処遇が相当であるとして、原決定の処分の著しい不当を主張するに帰するものと解される。

そこで、関係記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも併せて原決定の処分の当否を検討するに、本件は、少年が、他二名と共謀のうえ、オートバイ修理販売会社の倉庫から自動二輪車一台(時価六九五、〇〇〇円相当)を窃取したという事案である。

原決定は、少年を中等少年院(一般短期課程)に送致すべき理由として、〈1〉本件非行は、計画的な倉庫荒しであつて、その態様が悪質であること、〈2〉少年には再三に亘る不開始、不処分歴があり、反省の機会を与えられているのに、本件を敢行したものであること、〈3〉定時制高校に通学中であるが、無職で昼間は遊び暮していること、〈4〉(a)母と離婚して別居中の親権者父R・U、(b)母R・R子、(c)兄R・S、(d)母の内縁の夫A、(e)定時制高校の担任教諭○○○○、(f)同級生B他二名らには、原判示各事情を考えると、必ずしも充分な監護を期待し得ないこと、〈5〉従前及び今回の非行の原因は、少年の主体性の欠如、軽率さ、友人への追従に存するものであることを挙げ、「社会内処遇では再非行の危険性が高い」ものと結論している。

右諸点につき考察してみると、

〈1〉  本件が計画的な倉庫荒しであることは、原判示のとおりであり、その犯情は軽いものとは言えない。しかし、他方において、その動機が、少年らにおいて、免許もないのに「ナナハンを乗り回してみたい」との幼稚な考えを起したことに存すること、本件は、刑事未成年者であるCが提案し、共犯者Dが決断したところに少年も追随して共謀に加わつたものであること、本件オートバイを窃取した直後にパトロールカーの接近に気付き、これを放置して逃走したため、即座に被害品は回収されて被害者に還付されていることをも充分考慮する必要がある。

〈2〉  少年の非行歴は中学二年のときに始まり、昭和五四、五五の両年に集中している。非行内容はいずれも二名ないし三名の共犯あるいは多数による兇器準備集合であつて、少年の単独犯行はなく、これに対する処遇としては、審判不開始二回、不処分一回に終つている。昭和五六年四月、定時制高校に進学した後は、交通違反による反則金納付が四回あるだけで、本件を除いては、とくに顕著な非行傾向は窺えない。

〈3〉  定時制高校に通う者であつても、必ず職に就かなければならないいわれはないのであつて、非行化防止の観点からは、就職しないことによつて生ずる日中の余暇をどのように過しているかが問題となるに過ぎない。当審における事実取調べの結果をも加えて検討すれば、少年は、日中は店の掃除を手伝つたりしながら母とともに過ごす時間が多く、素行不良者との徒遊に終始しているような状況は窺われないのみならず、現時点においては就職先が内定しており、通勤のための交通手段にも問題はないものと認められる。

〈4〉  少年に対する処過を決するうえで最も重要なのは、前記〈5〉の少年の性格面の問題点であり、これを矯正するための保護環境の調整である。少年は、知能程度は普通であるのに、意思が弱く、無気力であるため、複雑な家庭事情から家庭に対する不充足感の代償として仲間の承認を得ようと追従、同調的に非行に加わる傾向を示している。幸い、原審附添人である定時制高校の担任教諭が少年の更生に熱意を有し、進んで家庭環境の調整に努力しており、関係者一同の間に少年を母と同居させることの合意が成立しているのであるから、これによつて少年の家庭に対する不充足感が直ちに解消するには至らないにせよ、相当程度改善されることが期待できる。そして、少年は、母や兄、教師に対し反抗するようなところはなく、言われたことには素直に従う面も認められるので、保護観察所の指導監督の下で、母や兄、母の内夫らが、担任教諭や同級生、就職先の上司等の社会資源と緊密に協力し合つて少年の監護に当ることにより、再非行防止の実を挙げることも可能と思われる。

以上の諸点を総合すれば、この際、少年を保護観察所の保護観察に付することにより、自力更生のための最後の機会を与えることが適切と認められるから、少年を中等少年院(一般短期課程)に送致することとした原決定は、その処分が著しく不当であつて取消しを免れない。論旨は理由がある。

よつて少年法三三条二項、少年審判規則五〇条により原決定を取り消し、本件を原裁判所である東京家庭裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 草場良八 裁判官 半谷恭一 須藤繁)

抗告申立書〈省略〉

〔参考〕 少年調査票〈省略〉

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